たとえばアナタと恋をして
先生に声をかけようと、身体の向きを変えようとして、何かが、腕にひっかかる。


「……?」

ふと見ると、晃があたしのシャツの袖口をつまんでいる。

きゃーーーーー!


いつ、林さんが戻ってくるか分かんないし、て言うかなんなの?



「……夏生、元気?」

小声の、そのトーンを、あたしは知っている。

『彼女役』の時に、沢山沢山聴いた。

優しくて、ちっともチャラくない、心地好い落ち着いた響き。


それだけで泣きそうになるなんて、どうかしてる。

だったらいっそ、チャラいまんまで接してよ。



あたしのリハビリは、確かに効果があった。

『愛しい人に接する喜び』を知ってしまった。



そして、失う悲しみも。
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