仲良し8人組
グレーのスーツに身を包んで、左手でネクタイを緩めるその男性に悔しいけれどひなはいつも目を奪われる。
堤亮介というその男に。
亮介の姿を確認したひなの口から漏れるフフッという笑い声。
それは好きだと思っていても、それを決して口にしない自分へ向けたものなのだろう。
徐々にひなと亮介の距離が近付いていく。
就職と共に茶色に染めていた髪を、黒く短くした亮介の髪色にもやっと最近慣れてきた。
「亮介!」
そう声を上げると、亮介の顔がひなへ向く。
片手を挙げて「おう」と言った後に、健康的な肌色とは対照的に、真っ白な歯を見せてシシッと子供みたいに笑ってみせる亮介。
ひなも自然と歩を進めるのが早くなる。
亮介の前に着くと、
「お疲れ!ひな」
その言葉と共に亮介の手がわしゃわしゃっとひなの髪を乱した。
「もう!折角綺麗に巻いてるんだから!」
「ひながこれ以上綺麗になったら困る」
ぷうっと頬を膨らませて文句を言うひなに投げられた亮介のその言葉。
言葉自体は甘いが、如何せんそう言いながら悪戯っ子の様に笑っているのだから、ひなの不満が消える筈もなく。
「お世辞は要らないんですけど」
「あっ、バレた!」
「バレバレ」
やっぱりという程二人の間に甘い空気はやって来ない。
でもそれで良い。
それが良い。