バトンタッチ
Ⅱ
私には、お父さんとの思い出がほとんどない。
うちの父は、業界じゃそこそこ有名な医薬品メーカーに勤めていて、子どもの頃からいつも忙しく働いていた。
たまに早く帰ってきたかと思えば、ビール片手にテレビ付けたままで寝ちゃったり。
休みの日はいつもお昼頃まで寝てるのは当たり前で、どこかに出かけた思い出も数えるほど。
大きくなるに連れ、私も弟の祐太郎もお父さんと過ごす時間は少なくなっていった。
「福岡に、行くことになった。」
そんなお父さんに、転勤の辞令が下ったのは今から三年前のこと。
初めは、家族で引っ越すことも考えたけど当時、私は大学生で祐太郎は高校生。お母さんにも仕事がある、という様々な理由を考慮して、お父さん一人が福岡に行くことになった。