あまさがたりないくらいでいいの。



あの3人はまだ盛り上がっているようなので、少し彼の話をしよう。



“彼”とはもちろん“千石翔祐”のこと。

これ、といった特徴はない。
かと言って、モテない訳はない。

バスケが大好きだった彼は、
中学にはいるとテニス部に入ってそこそこに強い位置にいるみたい。

…ってのは嘘で、
本当はすごい強い…らしい。

屋外スポーツはやはり焼けるらしく、腕や足はまっくろ。

無駄のない体のあちこちは細くて、綺麗で。だけどしっかり筋肉はついている。

こいつがモテなかったらおかしい、
って私は心底思うんだよね。


でも、普通に話すことは出来る。
何故なら同じ小学校だったから。

ミニバスもやってたみたいで、私も何回か見たことはあるけど
これでもか、ってくらい格好よかった。


私が梅雨が好きなのも、雨が好きなのも、りんご味の飴ばかり食べるのも、全部彼のせいだと思う。


彼は私と同じ6月生まれで、私より2週間早く生まれている。

これに運命を感じる私も大概ばかだなぁと、つくづく思う。


小学校の頃、ある雨の日。
その時たまたま席の近かった彼と私は周りの友達も巻き込み、皆で話していた。

ひとりの男子が、
「今日雨じゃん!外で遊べないし…」

まじ最悪ー、と嘆いていた。

すると彼が、
「そんなことねーよ!雨の日だって、楽しいんだぜ?な、あめ?」

と、同じ6月生まれの私に同意を求めてきた。

こんな些細なことではあるけど、
彼が“同じ”だということを知っていたのが、ものすごく嬉しかったことを覚えている。


中学に上がってすぐ、仲の良かった人に「りんご」と呼ばれるようになった。

ある時涼我が
「翔祐ぇ、あめってな“りんご”って呼ばれてんだぜー」

と彼に言った。

心底やめてほしかった。
その場に居合わせていなかったことを悔いたい。

後日、彼と涼我が私のところに寄ってきて

「お前、本当にあめのこと覚えてねーの?こいつ!あめ…じゃねぇ、りんごちゃん!」

と、涼我が意味不明な紹介をした。

「ん、覚えてない。で、なんでりんご?」

「いつもりんご味の飴食ってるから!」

「ははっ、なんだよそれ」

すると彼が徐ろに私に近づいてきて、

「…ふーん、“りんごあめちゃん”か。よろしくな」

と爽快に微笑んだ。

思えば、私はもっと前から彼のことを好きだったわけだけど
この時にもう一度、恋に落ちたのかもしれない。

だから、意外と“りんご”って呼ばれるの
嫌なわけじゃ、ないんだよね。

話の流れからすると、彼は私のことを知らないみたいだった。

まぁ、無理もない。

一緒のクラスになったのは一回だけだし。
なにせまだ幼かったから…。



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