光の花の散り際に
散り際は美しくありたい
――ヒュー……ドーン!!
午後8時。
真夏の夜空に一発の花火が上がり、花火大会が始まった。
暗闇の中に一番最初に咲いたのは、目を細めてしまうほど眩しい光の大輪だった。
打ち上げ会場から離れているマンションのベランダにいても、その明るさと身体の芯に響く音はしっかりと届く。
夜になっても残ったままの蒸し暑さを、情けのように吹いている風が和らげていた。
だけどそれの向きの加減で、火薬の匂いが鼻につく。
息をすると喉が焼けるように痛くなって、少しだけ視界に涙が滲んだ。
たまに休息を挟みながらも、花火は次々と上がっていく。
赤、青、黄、緑、紫。
様々な色で彩られた大小様々な花や、ユニークな模様。
単発だったり、連続だったり。
観客を喜ばせる絶妙なタイミングで、空は何度も何度も明るくなる。
だけどどの光も、所詮はすぐに散っていった。
当たり前だけど、あの綺麗な花なんて一時の楽しみでしかない。
今さっき見たものとまったく同じものなんて、きっと夜空には上がらないのだろう。
どれだけ花火職人が精密に同じものを作って打ち上げたとしても、それは別物でしかない。
その“瞬間”に見たものは、一度きりの一つでしかないのだから。
でも、だからこそ人は引かれる。
儚さに秘められた魅力というのは、恐ろしいほど人の心に残り、揺さぶってくるものだ。
あたしの心も、確実に揺さぶられていた。
今にも散ってしまいそうな儚く遠い記憶に、触れてしまいたくなる。大事に守って、自分の中に残しておきたくなる。
……でも、もうそんなの無意味だ。
これ以上先の見えない未来のために、縋りつく意味なんてない。
すべてを捧げたのに何一つ変えられなかった日々を、やり直せるわけでもないのだから。
守ろうとするたび、捨てようとするたび。
あたしはただ、苦しくなる。
だから、揺らがないで……決意したこと。
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