光の花の散り際に
ベッドの中から抜け出して身支度を整える。
乱れた髪の毛を結わえ直して、彰人にほとんど見られることなく脱がされた浴衣をもう一度着た。
帯をきつめに締めると、自然と背筋が伸びる。
もう、陽は昇ったのだろうか。
昨夜は花火が上がっていた空は、うっすらと明るくなってきている。
清々しい朝の光を眺めながらゆっくりと深呼吸をすると、心の中に残っていた記憶が見えなくなっていくような気がした。
あの、綺麗に咲いていた光の花のように。
わずかな余韻だけを残して散っていく。
……大丈夫。
もう、夢から覚めた。
求められていないものなんて、あたしももう求めたりなんかしない。
「……あれ、夏蓮……?」
もぞもぞとシーツが動く音がして振り返ると、ちょうど彰人が起きたところだった。
隣にいたはずのあたしが突っ立っている姿を、寝ぼけ眼で見ている。
後ろ髪がはねているのが可愛らしくて、くすりと笑った。
こんな姿を見るのも、今日で最後だね。
「あたし、帰るね」
「えっ、こんな時間に? まだ早朝じゃん」
ベッドの脇に置いてある時計を見て、それから驚いたようにあたしを見てくる。
それもそうだ。こんな時間に帰るなんて、初めてのことだったから。
だけど決意が固まった今、この部屋に長居する意味もない。
「でも駅に着く頃には始発も動くよ」
「……そっか。じゃあ、気を付けてな」
彰人はそう言って大きなあくびをした。
この部屋から帰るとき、彰人はあたしを送ろうとはしない。そんな習慣も、いつから始まったんだっけ。
付き合い始めた頃には、あたしが断っても彰人は駅まで送ってくれるほど律儀だった。
でもそれも、もはや過去のこと。
優しさや思いやりの面影に、あたしはもう触れることが出来ない。
大事に守っていたかった彰人への思いさえ、手放すことしか出来ないんだ。