光の花の散り際に


マンションの外に出る頃には、すっかり汗ばんでいた。

少し前に見たときよりも明るくなった空の下は、今日も夏の暑さに包まれている。

一度だけ彰人の部屋に目を向けたけど、あたしはすぐに駅に向かって歩き始めた。


言いたいことだけ言い残して去るあたしを、彰人は引き止めることはしなかった。

虚しい気もするけど、それでいい。それが、あたしと彰人のためになるから。

あたしが少しずつ前を見て歩き出すように、彰人も確実に前を見据え始めているのだろう。

彰人の前進はあたしが最後にあの人に求めたものだから、喜ぶべきことだった。


「……」


だけど横断歩道で信号につかまって足を止めると、やっぱり胸の内には余計な感情が滲み出てきてしまう。

それを意識から追い出すべく、強く瞼を閉じた。


暗闇に浮かぶのは、大小様々で彩り豊かな光の花の数々。

彰人と見ていたものなのか、一人で見ていたものなのか。
果たしてそれがいつのものなのかは分からない。

……ただ。

咲いては散っていく、目に焼き付くほどの光が、切なくて儚いものだということは分かる。

光の花が散り際に見せる光景は、余韻に浸りたくなるほど綺麗だった。



end


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