光の花の散り際に
合鍵を渡されたのは、これが初めてだった。
そもそもあの人は合鍵の存在すらちらつかせなかったし、あるとしてもそれはあたしとは別の人の手に渡っているのだと思っていた。
まさか、今まで誰にも合鍵を渡してこなかった?
……そんなこと、あり得るわけないか。
必ず一人には、渡しているはず。
あたしに貸してくれたこれは、予備のものにすぎない。
きっと、何人もの人の手の中を渡ってきたんだ。あたしと同じ立場の人の手の中を……。
もしかするとこの鍵を、昨日手にしていた人がいるのかもしれない。
そんな予想がみるみるうちに膨れ上がると、渡されたときに希望が宿って見えた鍵が急に冷たく感じられた。
あの人と一緒でなくてもこの部屋に堂々と立ち入らせてくれた魔法の鍵が、この期に及んで浮かれているあたしを嘲笑っているようだった。
「……っ、」
何か、あたし。
完全にただの馬鹿だ。
あなたに期待しても意味がないって分かっているつもりだったのに、何も分かってなんかいない。
ねえ、こんなあたしだから駄目なの?
すべてを捨てて、捧げても、だからあなたはこっちを見てくれないの……?
嗚咽が漏れそうになった。
あの人が帰ってきたときに泣いてたら、絶対変に思われる。
だから慌てて手の甲で口を押さえるけど、リップグロスがそこに付くだけで込み上げてくるものはさらに勢いを増す。
あの人との1年間を思うと、帰るまで流さないと決めていた涙まで出てきた。
あの人に少しでもよく見られたくて丁寧に施したメイクも、あっさりと剥がれ落ちていくようだった。
――ヒュー……ドーンッ、ドーンッ!
絶え間なく開く光の花。
その光が、ベランダで一人きりで泣くあたしを惨めに照らす。
火薬の爆発音がうるさいほど鳴り響いているはずなのに、情けない嗚咽は全然隠してくれていないみたいに浮き彫りに聞こえた。