光の花の散り際に
「夏蓮(かれん)、何泣いてんの?」
背後から優しい手つきで抱き締められる。
突然のことに驚いて身体を強張らせると、耳元で甘い声に慰められた。
「そんな泣くなよ。俺がいなくて、寂しかった?」
低い響きを持った声に甘やかされると、あたしはいつだって余計なことを考えられなくなる。
この人はそんなあたしのことならすべて知り尽くしているみたいで、いつもこうしてあたしの心を揺さぶってきた。
離れられないように、縛ることも忘れない。
だから馬鹿なあたしはそれにまた無駄な夢を見ては、すべてを捧げてしまうんだ。
この人は一度だってあたしのために、すべてを捨てることも捧げることもしてくれないけど……。
「……っ、彰人(あきと)!!」
完全に涙を拭えていないままだったけど、振り返って彰人の胸に飛び込んだ。
どうせ、泣いていたことはバレている。
だったら今はもう、ただただこの抱き締めてくれる腕に甘えたい。力強く、しがみつきたい。
「どうした? 今日は甘えん坊だなぁ」
珍しいよ、と言って、彰人はあたしが望んだ通り優しく抱き締めてくれる。
不思議そうな顔をするくせに、さっき泣いていた理由は尋ねてこない。
助かると同時に、所詮はその程度も気にしていないと思うと悲しくもなった。
しばらくして彰人はそっとあたしの身体を離すと、泣いて腫れた瞼に口づけを落とす。
「いい子にして待ってたご褒美」
そう言って、唇にもかするようなキスをしてきた。
触れてもすぐに消えてしまう温もりは、この人があたしに見せる夢そのもの。
そのことにまた、涙が出そうだった。
「ここ暑いし、中入ろーぜ」
「でも、花火が……」
「花火なら中からでも見れるって。だからほら、入ろう?」
「……」
彰人は分かってない。
外の空気を吸いながら見ることで、少しでも去年と同じような気分で花火を見たがっていることに。