光の花の散り際に
一緒に花火が見たい。
そう言ったのはあたしだけど、ただ一緒に見られたらいいわけじゃないの。
それぐらい、分かってよ……。
そう素直に言えたら、どれだけよかっただろう。
結局口にする勇気は出なくて、彰人に手を引かれるままに室内に入った。
彰人の手によって閉じられた透明の引き戸の向こうでは、まだ花火が上がっている。
だけどあたしにはもう、それがさっきまで見ていたものとは違うように見えた。
音は遠くなり、匂いも消えた。
光もわずかに、霞んで目に届く。
……ああ、あの花火も同じだ。
綺麗なままのはずなのに、どんどん色褪せていく。幻になって遠ざかる、儚い思い出と同じだ。
「そうだ、鍵返してくれる?」
エアコンを稼働させた彰人は、シャツの襟元をパタパタと動かしながら手を差し出してきた。
あたしがこの部屋の鍵を持つ資格がないことは分かっていたはず。
だけどこうやってすぐに返すように催促されると、やっぱり胸の奥がチクリと痛んだ。
このまま持ってていいよ。
そう言われることを、あたしは性懲りもなく期待していたのかもしれない。
「……うん。貸してくれてありがとう」
でも、これ以上本音を言っても無理だから、笑顔で握り締めていた鍵を返す。
温かくなっているはずなのに、やっぱりもう冷たくしか感じられなかった。
彰人は受け取った鍵をジーンズのポケットにしまうと、すぐそばにあったベッドに腰かけた。
「夏蓮、おいで」
そして、甘い声であたしを誘う。
腕を広げて待つ彼のもとへと向かうと、いつものように膝の上に座らされた。
背後から彰人の長い腕が身体に絡みつく。
彰人の腕が暗い部屋で赤く照らされている。
引き戸に目を向けると、大きな赤い花が夜空に咲いているのが見えた。
だけどゆっくりと花びらを空中に散らしていく。
散り際に目に焼き付く光が、とても綺麗に見えた。