光の花の散り際に
「夏蓮の浴衣姿、すげーそそられる」
「……!」
花火を見ていると、髪の毛をアップにしてあらわになっているうなじに彰人の息がかかった。
思わず縮こまると、そこに柔らかい感触を押し付けられる。
「……っ、ねえ、花火、見ないの?」
「見てるよ、ちゃんと」
口ではそう言うものの、手は艶かしく膝の上を滑っていた。
紺色の上の蝶と牡丹の柄を、彰人の大きな手が覆い隠す。
……あなたはもう、覚えてないのかもしれないね。
去年の花火大会。
この浴衣を着て行ったら、“似合ってるよ、可愛い”と言ってくれたこと。
そのときのことを少しでも覚えていてほしい。思い出してほしい。
そんな思いで、わざと今日も同じ浴衣を着た。
でも、駄目だった。
あなたはあたしの浴衣姿を、あの日と同じようには褒めてくれない。
結局、別の意識を呼び起こすものとしかならなかった。
……これが、現実。
見ていたはずの花火が視界から消えて、あたしを見下ろす彰人の顔と天井がぼんやりと見える。
浴衣はすっかりはだけていて、激しいキスを何度も受け止める。
彰人の唇が肌を這う度に、手が全身を弄ってくる度に、涙が目尻から耳の方に流れた。
もう、何への涙なのか分からない。
「あき、と……」
「ん、どうした……夏蓮」
名前を呼ぶと、優しい笑みを浮かべられた。
だけどすぐに精気に溢れた笑みに変わり、どんどんあたしを追い詰める。
優しさを与えてもらえれば、いつだって希望が見えた。
でもそれが必ず覚める甘い夢にすぎないと気付いてからは、こんな夢はつらいだけだと感じた。
……いっそ、永遠に覚めない夢の中に連れていってほしかったよ。
だけど彰人が連れていってくれるのは、あの光の花のように散る一瞬の夢の中だ。それと、虚しい行為の先に登り詰める高みだけ。
結局あなたは、あたしが本当に求めるものをくれることなんてないんだ。