光の花の散り際に


関係を持ち始めた頃に行われた花火大会。
彰人は彼女ではなく、あたしを優先して誘ってくれた。

それが、去年の花火大会のこと。

人混みの中で手を繋ぎながら屋台を回り、花火を見る。
普段は絶対に出来ない普通のカップルらしいデートを、その日に唯一彰人は叶えてくれた。

一番楽しくて、何よりも幸せな思い出。

だからこそ、未来を見た。
いつかは彰人の本物の彼女になれるという、夢みたいなことを。


でも、それが結局は甘い夢の始まりだったのかもしれない。

彰人との付き合いが長くなるほど、幸せな思い出が儚く遠ざかった。

彰人は、彼女と別れた。でもすぐに、別の人と付き合い始めた。

もちろんそれは、あたしではなかった。

浮気相手のままの関係。本命と別れても、彰人はあたしを彼女にしない。

そんな自分の立場の意味を理解出来ないほど、さすがにあたしも馬鹿ではなかった。

所詮、浮気相手。
その証拠に、徐々に彰人があたしに連絡することが減った。

会っても、いちいち人目を避けるような場所では会わない。
密会場所は自ずと彰人の部屋だけになり、会ってすることも一つだけになった。


『あいつ、本命以外に何人もの女と付き合ってるらしいよ』


おまけに彰人との共通の友人から、そんなことまで聞かされてしまった。

あたしと彰人との関係を知らないからこそその友人は話してくれたのだけど、もしかしたらあの子はあたし達の関係に勘づいていたのかもしれない。


“だから、あいつはやめときな”


そういう意味で言ってくれていたのかもしれないと、今なら思える。勝手かもしれないけど。

当の本人はというと、提供された情報を確かめるべく尋ねたら、あっさりとそれは事実だと認めた。


『でも、夏蓮が一番好きだよ』


おまけに何の悪びれた様子もなく、そんなことを言ってあたしを抱いた。

……嘘つき。

一番好きなのは本命でしょう?


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