絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
気が付くと、ファイツは駆けていた。

全速力で、寮に向かって。

途中、『おい、寝坊教師』と書いた紙をくしゃくしゃに丸めて捨てた。

そうせずにいられなかった。

何がこんなに辛いのか、悲しいのか、ファイツにはわからない。

最初から人間なんて大嫌いだったはずだ。こういう生物だと知っていたはずだ。

それなのになぜ、こんなにも衝撃を受ける…?

ファイツは自分が泣いていることに気が付いて、そのことがあまりにも悔しくてそれを乱暴にぬぐった。

今日は寮の自室にこもって授業放棄する。

そう決心して寮に駆けると、寮からなぜだが焦げ臭いにおいが漂ってくるのがわかった。

「…?」

見れば、入り口の周りに、たくさんの妖精たちが集まってこほこほと煙にむせている。

妖精たちは皆涙目で、すすり泣くものもいた。

「苔が…」

「光る苔が…燃やされて…」

それだけで何が起こったのか、ファイツには見当がついた。

その瞬間、心の芯がすっと冷え切るような感じがした。

冷え切り、凍って、動かなくなるような感じが。

せっかく希望を与えてくれた光る苔を残らず燃やして妖精たちの環境を悪くしてもなんとも思わない、それが人間だ。

人間の所業だ。

人間なんて、そういう生物なのだ。

ファイツは拳をにぎりしめた。

人間なんて…。

―人間なんて、大っ嫌いだ…!!
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