絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
青年―テフィオは眉間にしわを寄せ、何かに苛立ったような表情で皆の感謝の言葉を受けていたが、不意につかつかとバリバウスに歩み寄った。

その場にひざまずき、バリバウスの服のすそをとって朗々と声を張り上げる。

「我、御身に降りかかりたる災い退けし者。御身無事なる喜悦とともに、願い奉る」

これにはあたりが一気にざわついた。シルフィも思わず口をぽかんと開ける。

「これは…」

「 “救命の請願”…!」

「むぅ、やられた…!」

“救命の請願”。

それはこの国で生きる者なら誰もが守らねばならないしきたりのひとつ。

なんのことはない、恩を受けた場合、それに見合ったものを返すというだけのものだが、今回は場合が違う。

バリバウスは命を助けられている。

そういった大きすぎる恩を受けた場合は、全力で恩人のどんな願いも叶えてやらねばならないのだ。

特に高貴な身分の者は体面を保つため絶対にこのしきたりを破ることはできない。

教師たちがバリバウスを守ろうと固まっていたのはこのしきたりのせいだった。

皆隙あらば命を救い願い事を聞いてもらおうと狙っていたのだ。

バリバウスは苦虫をかみつぶしたような顔で唸り、「…何なりと」と返答した。こう答えてしまっては、もう願いを退けることはできない。

テフィオは凛々しい瞳にきらりとなぜか剣呑な光を宿して、その願いを口にした。

「…この女を、俺の協制先生(パートナーラキスター)にしろ」

あたりがしんと静まり返った。

テフィオが“この女”と指差したのが、偶然この場に居合わせただけの、ただの掃除婦だったからだ。

その掃除婦とはもちろん、シルフィである。

シルフィは口元をおさえ、何度もまばたく。これが夢ではないかと疑っているように。

「あたし!?」
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