絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
妖精たちは人口より多くこの街に住んでいながら、この街で姿を見かけることはない。

彼らは完全に裏手にまわされ、隠されている。家庭の奥、浴場の奥、水路の下に。

おおっぴらに彼らの姿を見ることができる場といえば、円形闘技場だけだ。そこでは雄の妖精たちが命を懸けて炎の技を競わされる様を見ることができるが、彼らとの接触は難しい。試合が終われば牢獄につながれてしまうからだ。

シルフィは気の中毒から救おうとあちこちで何度も妖精との接触を試みたが、すべて失敗に終わってきた。しかし妖精先生ならば生徒と接触することができる。これはシルフィが妖精先生を目指した理由のひとつだ。

「…だから?」

無愛想なテフィオの返答に、シルフィは少し唇を尖らせた。

「ココにしわ、寄ってるよ」

「放っておけ」

「あ、一本増えた」

「うるさい」

ますます眉間にしわをよせるテフィオが面白くてシルフィが笑うと、テフィオはシルフィを振り切って早歩きを始めた。

『テフィオ先生、待ってよ~。冷たいよ~。シルフィのこと気にいって、協制先生にしてくれたんじゃなかったの? 婚約者にまでしてくれるって言ってたのに』

プチの声に、シルフィはあの口づけのことを思い出してぼっと赤面した。

熱弁をふるっている間は平気だが、ふとした拍子にその事実が思い出されるとたまらない。

シルフィが慌てふためいていると、テフィオが背中を向けたまま返答した。

「馬鹿な。いいか、俺は目的があってお前を指名しただけだ。婚約だって、偽装に決まっているだろう。その方が俺にとって都合がいいからだ。お前個人が有用なのかと問われれば、決してそうではないからな」

「うぅ…そんなことないよ。いつもユウヨウだよあたし。ゆったり構える気持ち、忘れてないもの」

「…!!?」

シルフィの言葉の意味が理解できず、テフィオの足が思わず止まる。見かねてプチが助け船を出した。

『つまりぃ、シルフィは“有用”を“悠揚”―ゆったりとして落ち着いているって意味とマニアックに間違えてるんだよ。いつものことなんだ、ウン』

「…………」

テフィオの眉間の皺がさらに深くなったのは言うまでもない。
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