水曜日の彼女
最後の方の言葉は小さい声で言っていたが…10年って言った?
俺が考え込んでいると…屋上のドアがガシャンと開いた。
ドアの方から
「鴻上先生!そろそろ戻ってくださ~い!」
と…ナースの呼ぶ声が聞こえる。
「やべっっ!」
と言うと、医師が立ち上がった。
【鴻上先生】と呼ばれた医師は、偶然にも…玲菜が憧れた【鴻上梨花】と同じ苗字だった。
じゃあね…と言って、立ち去ろうとする医師を、思わず呼び止め…
「あの…鴻上先生……また病院で会えますか?」
そう聞くと…
「俺…普段はニューヨークの病院に勤めているんだ。
今回はたまたま学会でこっちに来てて……。
でも…また偶然会うことがあったら、その時は遠慮なく声掛けてよ。」
そう言って俺に手を振ると、白衣を翻しながらドアの方へ去って行った。