みんな病んでる。
未だ、こころの何処かにいる、弱い俺に……。

「こら。何やってんだ」

柔らかな声が聞こえた。

そしてそいつは、俺を手で制した。

声の主は、さっきまで女子に絡まれていた、隣のクラス担任、横溝だった。

荒げた声ではなく、穏やかな声でかかってきた。

サツキは身体が自由になり、不気味にうふふと笑うとその場を去って行った。

「一方的に攻撃をするのは、よくない」

横溝はそう言い、いつの間にかまた廊下に転がっていた、俺のプラスチック製の名札を拾い上げた。

「……リョウ……。いい名前だな」

そう言って、女みたいなしなやかな手で、俺の学ランの襟元に名札をつけた。

「……」

なんだ、こいつ。

教師のくせに、俺を何故だかフリーズさせる。

……ああ、それにしても。

あいつを蹴っていたところを、教師に見られた。
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