月下美人ー親友以上恋人未満は、運命じゃない二人ー【完】
「ある程度の距離――厳密には触れるほど接近しない、
隠された刃物を突き付けられてもかわせる距離を保ったまま話しかける。
そして絶対に一人でどうにかしようとはしない。
通りに人がいなかったら携帯電話を手にして、いつでも通報できる状態にしておく。
……俺がマニュアルを書くなら、そうかな」
「……マニュアルか」
「まあ、でもマニュアルなんて書くだけ無意味だし、
普通の人間はそんなこと考える前に――自分の心配する前に相手の心配して話しかけちゃうからな。
俺はお前らがどんな風に対応していたって、注意してたろうな」
「そっか」
その変わらない一叶の答えにほっと、胸のあたりが軽くなるのを感じる。
注意してくれていたか。
……一叶は、一叶としてそこにいる。