今日は良い日だ
わかってるつもり

三百六十度を砂漠で囲まれたこの土地に、どうして町なんか作ったのかと人は言うだろう。しかしその理由は単純明快、そこに大きな湖があったからである。

水は命の源、生きるために必要不可欠な最重要資源。


ある旅人の話をしよう。

彼は旅の途中で、水を失った。地平線が続いているだけの砂漠の地で、命の水を失ったのだ。

途方にくれながらも彼は微かな望みを掛けて歩き続けた。もはや意識など定かではなかったかもしれない。

そうして水を失ってから三日三晩歩き通し、この水源を見つけた。彼は大粒の涙を流しながら神に感謝した。とても砂漠の真ん中にあるとは思えないほど、この湖は大きかった。絶えず水が溢れ続け、彼の渇きを潤した。周りを見回しても、町の影さえ見えやしない。乾いた地平線が続いているだけである。

喉を十分に潤してから、彼は失望した。元来た道さえ分からない。町へ行くにしても、また同じような長い長い道のりが待っているのかと思うと眩暈がした。

それならいっそ。


(ここで暮らそう)

豊富な水のお陰で辺りには植物が生えていた。何とかそれで食いつなぎ、時折訪れる旅人や行きずりの商人から食料を買い、生き続けた。

やがて少しずつ、彼と同じように湖のそばで暮らす人間が増えてきた。旅に疲れた者達が渇きを癒し、唯一無二の水源に感謝しながら暮らす土地。数人だった住民は集落と呼べるほどになり、村となり、やがて大きな町となった。

最初にこの湖で暮らし始めた元旅人は、どんどんと大きくなる町を見つめ、最後まで湖に感謝しながら死んでいった。そして彼が死んだ後も、人々は湖に感謝し、旅人の渇きを潤しながら、明るく謙虚に生きてきた。

それが、この町である。


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