今日は良い日だ


角族だ。マントのフードを被ってはいるがそのふくらみは隠しようがない。フードの隙間から見える、燃えるような赤い髪の毛。まだあどけなさを残した丸い瞳の少女。その琥珀色の瞳は風呂敷の上に並べられたキリクの商売品をくまなく見つめ、ある一点で止まった。嫌悪の表情で自分を見るキリクには一切構わずに、少女はある商品の前で勢いよく跪き、その商品を見つめる。突然の行動にキリクは驚いて一歩後退った。


「みつけた……」

キリクに聞こえるか聞こえないかの声で少女はぽつりと呟いた。キリクはどうやってこの角族を追い返そうかと思案しながら少女と距離を取っていた。キリクは、角族と会話をしたことがなかった。


「やっとみつけた……」

少女は動かない。キリクは恐る恐る角族の少女に声を掛けた。


「おい、もう店仕舞いなんだ、帰ってくれ」

「あの、」

キリクの声など一切なかったかのように、少女はキリクの言葉を無視して顔を上げた。膝を付く彼女に見上げられたキリクは、丸い琥珀色の瞳に射られて動けない。

そこでやっと角族の少女は初めてキリクの顔を見た。そしてその硬直した表情で彼が角族に慣れていない人間だということに気付く。少女は少し思案した後、ゆっくりと立ち上がってフードを脱いだ。燃えるような赤い髪と、二本の角が顕わになる。キリクは微かに息を呑んだ。

少女が口を開く。


「驚かせてしまってすみません。私はイーコと言います。見ての通り角族ですが、貴方に危害は加えません。少し話を聞いていただけませんか」

幼い見た目の割りに大人びた話し方をする少女だった。キリクの返事がないのを悟ると、イーコはそのまま話を続けた。


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