今日は良い日だ
一所懸命
翌日、キリクは昨日と同じ場所に店を出していた。昨日商品の購入を断った客が心変わりしてそれを求めに来る可能性があるからだ。その際に店の場所が違っていたら客は困るだろう。しかしキリクには心配事があった。昨日の角族だ。
同じ場所に店を出すことは例の角族の少女にとっても都合の良いことだろうと思う。それはキリクにとっては嬉しいことではなかった。だがその少女一人の為に他の客を手放すほどキリクの意志は弱くなかった。仕事に関しての妥協は自分が一番許さなかった。
大きな風呂敷の上に自慢の品物を並べていく。オススメの品はさりげなく前に、アンティークの品は目立たないようにわざと後ろに置いて、掘り出し物を好む客に見つけさせる。自分で見つけた、という唯一無二の(ような)出来事があると、その手の者たちは購入に手が伸びやすいのだ。
昨日の角族の少女のことは気になるが、そんなことよりも今は目の前の商売の方が大切だ。キリクは服の裾を伸ばして気合を入れた。
「よしっ、今日もやるか!」
キリクの予想に反して、例の少女は現れなかった。そしてもうひとつ想定外なことが起こった。客足が思うように伸びないのだ。昨日と同程度、いやもしかしたらそれ以下だ。今までの経験からすると、最初の三、四日ほどは店の目新しさから来店客数が多いはずなのだが。
この町は商人の数が多い。それ故に住民の眼も肥えているのかもしれない。売り上げを伸ばすためには、他の店との差を付けなければ。