今日は良い日だ
「あ、あるにはあるが……。海綿は海で採れるものだ。砂漠のこの地では希少価値が高くて相場がバカ高い。一般市民が体洗いごときに掛ける値段じゃない」
「その辺は大丈夫です。早く品物を並べてください」
「一体何だって言うん……」
「いいから早く」
角族のイーコは一歩も引く様子を見せない。キリクはわけが分からないまま、荷台の包みに残されていた海綿を取り出して風呂敷の上に並べた。並べ終わるが早いか、イーコがキリクに顔を近付けて耳打ちする。
「間もなくそこの角から身なりの良い婦人がやって来ます。そしたら貴方はすかさずこの海綿を勧めてください。彼女は必ず買います」
「お前……?」
「ほら、来ましたよ」
イーコが言った通りの角から、身なりの良い婦人が歩いてきた。キリクは咄嗟に営業スマイルを作り、婦人に話し掛ける。彼女は海綿を見て目をしばたたかせ、たちまち笑顔になった。キリクにいくつか質問をし、実際に触ったりして納得すると、彼女は店にあったすべての海綿を買い占めていった。そして最後に、こう言って帰っていった。
「前に一度露天で買ってから大好きになってしまって、それからずっと探していたの。海綿を売っているお店は中々ないから、すごく探したのよ。どうもありがとう!」