今日は良い日だ
イーコは嬉しそうにまん丸の瞳を細めた。それからフードをぱさり、と下ろして、改めて真正面になるようにキリクと向き合う。
「今日は貴方にお願いがあって来たんです」
イーコが毅然とした態度で言う。キリクは途端に悪い予感がした。
「私を、ここで働かせてもらえませんか」
イーコの琥珀色の瞳がキリクを射抜く。真っ直ぐで力強い色をしていた。予感の的中ぶりに、キリクは軽い眩暈がした。
「そして私の働きが例の短剣に見合うものになったときに、それを譲っていただきたいんです」
キリクが横目で風呂敷の上を見た。例の短剣は、光に照らされ鈍く光っている。
「私の耳を、使ってください」
キリクは静かに目を閉じた。
確かに彼女の耳というのはとても魅力的だった。この聴力で事前に客の欲しいものを知ることができれば、商売は今の数倍効率的になり売り上げの向上に繋がるだろう。しかし、彼女が角族だというのもまた事実であり、これはそうとうの危険を伴うことでもあった。この町では何故か角族は普通の生活を送れている。しかし一歩外に出れば、角族というのは生きることさえ難しい、常識的な差別の対象となっているのだ。それに、角族だのなんだのを抜きにしても、キリクはまだイーコのことを信頼しているわけではなかった。
突き抜ける青空の匂いがする。キリクはゆっくりと瞼を持ち上げた。
「……わかった」
遠くに聞こえる商人の掛け声が、やけに鮮明に聞こえた。