今日は良い日だ
見つめる
「ただし」
びし、と指を一本突き上げて、キリクはひとつ条件を出した。
「この町に居る間だけだ。明日から五日、それがおれの滞在期間。その間だけお前を雇う。そして最後の日、賃金としてお前の業績に見合ったものをおれの商品の中からひとつ渡そう。それでいいか」
イーコはすぐさま二回続けて頷いた。短剣が手に入るかもしれないという期待からか、彼女の頬はほんのり紅潮していた。
ふう、と息を吐いてから、キリクはのそのそと商売の後片付けを始めた。
「とりあえず今日はもう終わりだ。明日の朝またここに来い」
「はい!」
元気良く返事をした後、「手伝います」と言ってイーコはキリクと共に後片付けを始める。品物を丁寧に丁寧に荷台に積んでいくイーコを見て、キリクはもう一度溜め息を吐いた。
(角族って、なんで迫害されたんだっけ……)
記憶の糸を辿ってみるが、何故かその理由を見つけることはできなかった。考えたことも、疑問に思ったこともない問題だった。常識で当たり前。当たり前で常識。考える必要もないことを、わざわざ考えたりはしない。
(やっかいな問題を抱えちまった)
今までの常識を覆されるかもしれない予感に、キリクは頭を抱えた。
常識や普通というのは、その物事に「常識」や「普通」という概念が無いからこそ成り立つものだ。言い換えれば、一切の曇りも無い偏見。知らないことすら知らないのだ。
だがそこに、一点でも陰りが見えれば。そこはもう常識でも普通でもない。いくつもある選択肢の内のひとつである、というだけ。選ばなくてはいけなくなる。数え切れないほど多くの選択肢の中から、自分で。
抱えていた頭を上げてキリクはイーコを見た。商品をひとつひとつ荷台に積んでいる。
(自分で考えるしかないか……)
角族のことを、そしてイーコのことを。