今日は良い日だ
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「なあ親父さん」
宿屋に戻りダイニングで食事を摂りながら、キリクは宿屋の親父に声を掛けた。キリクの視線は宙に浮いたままで、先ほどからフォークは動いていない。
「なんだ?」
他の客の夕飯の後片付けをしながら親父が応える。
「角族って……どうして迫害されたんだ?」
暖炉の炎がぱちぱちと音を立てている。砂漠の町の夜は冷えるのだ。
親父は片付けをしていた手を止めてキリクを見た。興味深げなその視線にキリクは堪らず声を上げる。
「なんだよ、変な顔して」
「いやあ……変なこと訊く客が居るもんだと思ってな」
その言葉にキリクは少しムッとして、「別にいいだろ」と不機嫌に答えた。
「お客さん旅人だろ? この町に来て角族に対する考えが変わったか」
「まあ……そんなところだ」
「俺はこの町で生まれたからなあ。角族が特別だと感じたことがねえんだ。ガキの頃は”力持ちでいいなあ”と思ってたくらいか。俺にとっちゃあいつらの角は、髪が黒いか茶色いか程度の違いでしかねえ」
腰に巻いたエプロンで手を拭きながら、親父はいつの間にかキリクの向かいの席に座った。