今日は良い日だ


「お前さんみたいにこの町の角族の生活に驚く奴は多いよ。他の客からも色々話を聞いてるしな、角族の迫害については大体知ってるが」

更にいつの間にかキリクの食事皿の上のソーセージをつまみながら親父は話を続ける。


「誰かが言ってたよ。”多分怖かったんだろう”って」

「こわかった?」

「角族がさ。人間ばかりを見て育てば確かにあいつらの角は異形だし、その上人間よりも力が強いときてる。相手のことをまったく知らなければ、自分たちの安全を脅かす存在かもしれないと見なしてもおかしくはないだろ」

キリクは口元に手を当てて黙って話を聞いていた。フォークは皿の上に置かれてしまっている。


「やられる前にやっちまおうっていうことだったんじゃねえか? 相手のことをよく知ろうともせずにな。愚かな人間がやりそうなことだ」

よく知ろうともせずに。その言葉にキリクの胸がほんの少しチクリと痛んだ。角族は魔族であり人間とは相容れない生物であると、当たり前に思い込んで生きてきた。キリクの生まれ育った環境ではそれは常識であり疑いの対象ですらなかった。だが実際は。実際は、違うかもしれないのだ。実際は、何一つキリクは知らないのだ。角族が害のある生物かどうかなんて。自分の目で見たわけでもないのに。常識を常識と思い込んで。


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