今日は良い日だ
清々しい朝が来て、キリクは身支度をして宿屋を出た。荷台をがらがら引いて昨日と同じ路地へと向かう。そこへ着くと、すでにイーコが立っていた。
「おはようございますキリクさん」
ぺこ、と浅いお辞儀をしてイーコは言った。
「ああ」
軽く返事を返してから荷台を路地の壁に付け、キリクは商売の準備を始める。風呂敷を広げ、その上に品物を並べていく。イーコもそれに習って丁寧に荷物を下ろしていった。
準備を進める手を休めずにイーコは口を開いた。
「商い中、私はキリクさんから一歩引いたところに座っていようと思っています。聞こえた情報があればお客さんが来た時に耳打ちします。この町の人は角族に慣れていますし、フードを被っていれば商売に支障は来すことはないと思いますが、私が隣に居ることに抵抗があるようならば荷台の後ろにでも隠れて、必要な時に情報を書いた紙をこっそり渡す方法にしようと思っています。……どうしますか?」
淡々と、イーコは言った。自分が差別の対象であることを当たり前に言ってのけた。悲しむでもなく、怒るでもなく。足首に付いた鎖は、まだ、外れていないのだ。彼女が動くたびにそれは耳障りな金属音を響かせる。
「イーコ、」
キリクは作業の手を止めてイーコに体を向けた。その声に反応してイーコが顔を上げる。
座って商品を並べていたイーコの前に跪くと、キリクは彼女に手を伸ばした。そして深く被られたフードをぱさりと下ろす。彼女の二本の角と赤い髪の毛が顕わになった。
イーコは不思議そうにキリクを見返す。