今日は良い日だ
「おれの隣に座ってろ。フードも外してろ。客商売なのに客との会話をしづらくしてどうする。紙での伝達なんて面倒臭くて返って迷惑だ。情報は素早くおれに教えてくれ」
キリクはイーコを真正面から見つめた。彼女の瞳は琥珀色に澄んでいて、真っ直ぐにキリクを見つめ返していた。
面倒臭そうに息をついてキリクは再び荷台から商品を下ろす作業に戻る。イーコは二、三秒固まった後、ぽりぽりとこめかみの辺りを掻いてから同じように作業に戻った。
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結果から言うと、キリクにとってイーコを雇ったことは正解だった。通りの角から恰幅のいい主人が歩いて来たと思ったらイーコはすかさず「装飾の多い銀食器」と耳打ちし、キリクがその通りのものを勧めると主人は大喜びで銀食器を買っていった。十数メートル離れた場所に居る露天商と客の会話を聞ききながら「髪留めが欲しいようですが好みのデザインが無くて購入を渋っています。花がモチーフの紅色」と言い、その客の予算までキリクに言いつけた。
そんな調子でイーコは見事に自分の役目をこなし、キリクの店の商品は面白いように売れていった。
昼下がり、商売が一段落したところでキリクは上機嫌で立ち上がった。
「何か軽く腹に入れとこう。買ってくるからお前はここに居てくれ」
「わかりました」
イーコの素直な返事を聞いてからキリクは食べ物を買いに出た。大通りでパンを揚げたような物を二つ買い、キリクはすぐに戻ってきた。
「ん、」
手に持っていたひとつをイーコの前にずい、と突き出す。イーコはすぐには受け取らず、困ったようにキリクを見上げた。