今日は良い日だ
「どうした? これ嫌いだったか」
「いえ。私、お金……」
そこでようやくキリクは、イーコがお金のことを気にしているのだと気が付いた。思わず笑いが込み上げてきて、キリクはくすくすと笑った。
「こんなところで金なんか取らねえよ」
「え、でも」
「いいから」
更にずい、と手を突き出されてイーコは遠慮しながらもそれを受け取った。
「ありがとうございます……」
膝を抱えた格好のまま両手でちびちびとパンを食べるイーコを横目で見ながらキリクはその隣に座った。そしてふと、気になったことを口にした。
「そういえば、お前の目ってどうして茶色なんだ?」
角族は、角が生えているということの他にもいくつか特徴がある種族だ。それが"赤毛"と"翡翠色の瞳"。イーコは髪こそ燃えるように真っ赤だが、瞳の色が違う。琥珀色だ。キリクはそれを不思議に思った。
イーコは食べ物をよく咀嚼してから飲み込み、問いに答えた。
「父が、人間なんです。私は、角族と人間の間に生まれた子供なんです」
ごくん、と口の中のものを勢いよく飲み込んでしまいキリクはゲホゲホと咳き込んだ。
「大丈夫ですか」
顔を覗き込むようにしてイーコがキリクの様子を窺う。