今日は良い日だ
「ああ……、しかしまあ、そんなこともあるんだな。初めて聞いた」
角族と人間の合いの子。それが彼女。琥珀の瞳は、父親の形見だったのか。
「母は私を産んですぐに他界したと聞いています。もしかしたら角族にとって、人間との子供を産むのは負担が大きいことだったのかもしれません」
そこで言葉を切ってイーコはパンを一口齧った。
「そうか……」
キリクには掛ける言葉が見つからなかった。同情するのも可笑しな話だし、理解や共感ができるような話でもない。黙々とパンを食べながら、彼女の左足の鎖を横目で見つめていた。
午後の商いも順調に進み、陽が沈みかけてきたところでキリクは店を閉めた。素直に労いの言葉をイーコに掛けてやると、彼女は少し驚いたような表情をした後、歳相応の可愛らしい笑顔を浮かべてみせた。
今日、例の短剣は売れなかった。隣にイーコが居るのだからとても客に勧めたりはできないが、キリクはまだこの短剣をイーコに譲ると決めたわけではなかった。だからいつも通りに風呂敷の上に並べていたのだ。しかしキリクはこの日、商いの後片付けをしながらその短剣を布に包み、荷台の一番奥に積んだ。そこは商品の予備やとてもこの町では売れそうにない品を置いている場所だった。ここに置いてある品物を、キリクは風呂敷の上に並べない。