今日は良い日だ
「いくら角族の方が力が強いと言っても、絶対的ではないですから。角族が深く息を吸える場所なんて、他の町には無いんです」
イーコの後ろ姿を見つめながら、キリクは無意識の内に彼女に手を伸ばしていた。綺麗に伸びた彼女の角に、触れる。イーコの肩がびくっと揺れて、彼女は勢いよく振り返った。
「あ、すまない」
イーコは数秒キリクを見上げてから、頭を下げるようにして瞼を閉じた。
「どうぞ」
短くそう言って、動かなくなる。キリクは恐る恐る、彼女の角に触れた。意外と先は尖っていない。表面は少しざらついていて、細かい横縞が層の様に入っている。硬い、が、温かいような気もして、まるで、生きた石のような、そんな印象を持った。
座って頭を下げる角族の少女と、その角に触れる青年の姿を、強い西日が照らしていた。影が長く伸びて、地面に落ちる。
砂漠の夕暮れは、すぐそこ。向こうから茜色の空が迫ってきている。