今日は良い日だ
ようやく木に辿り着き、その木陰にハールを座らせた。荷物の中から水を取り出し、まずハールに飲ませてやる。次にキリクも水を飲んだ。砂っぽくなっていた喉が潤っていく。水は貴重な為、水分補給はそのくらいにしてキリクも木陰に座った。ハールの大きな体は背凭れに丁度良い。
(しっかし、どうしたものか)
地平線を見つめながらキリクは思った。このまま無計画に歩いていても命を削るだけだ。食料が十分にあると言っても持ってあと一週間程度だろう。元来た町に戻るなら今すぐに引き返さなければいけない。最低でも五日は掛かるのだから。
(……仕方ない。引き返すか)
湖の町での商売は魅力的だが仕方がない。元々曖昧な情報しか無かったのだ。神に愛された土地だの旅人が集う最高のオアシスだの。そんな町がこんな砂漠のど真ん中にあるとは思えない。ガセだったのだ。夢うつつの旅人が拵えた空想。何故ならほら、三百六十度何も無い、果てしない地平線が続いてい、る……だけ?
キリクは目を凝らした。何もないと思っていた地平線に微かな影が見えた気がしたからである。思わず立ち上がり、数歩歩く。蜃気楼? いやあれは間違いなく町の影だ。かのオアシスだ。キリクの胸は高鳴った。
「……ハール。どうやら神は俺達の味方だ。行くぞ! 旅人に幸あれ!」
はっはっは! と笑うキリクに促され、ハールはのっそりと立ち上がり、再び歩き出した。遥か先、地平線の上に浮かぶオアシスに向かって。