今日は良い日だ
辛うじて営業スマイルを浮かべながらキリクは聞いた。
「いやあね、露天商さんならご存知でしょう、商売という点では同業者なんだから」
くすくす笑って貴婦人は答えた。キリクの眉が顰められる。なんのことだ?
「あら! ご存じ無い? あのね、大きな声では言えないのだけれど……」
貴婦人が顔を近付けて潜めた声でキリクに耳打ちする。
「今ここに、人売りが来てるらしいのよ」
キリクの心臓がドクンと跳ねた。言葉を失っていると貴婦人がケラケラと笑って話す。
「そこの突き当たりの宿の一室なんだけれどね、裏から情報が回ってきたの。私奴隷は買ったことがないのだけれど一度見てみようかと思ってねえ」
「部屋の番号は」
「え?」
「部屋の番号は?」
「ええっと、二階の一番奥の部屋だったかしら」
「奴隷なんて、やめとけ。人間が腐るぞ」
「まッ……」
私にそんな暴言を吐くなんて、というように目を丸くする貴婦人には眼もくれずに、キリクは駆け出した。