今日は良い日だ
「心配掛けて悪かった」
そう声を掛けると、イーコは千切れるほどに頭を振った。
「違います、キリクさん、謝るのは私です。私が油断したばかりにこんなことになったんです」
ぽろぽろと零れる涙を拭いながらイーコは話す。
「キリクさんにご迷惑をお掛けして、しかもこんな大怪我までさせてしまって本当に……本当に、すみませんでした」
俯いて謝るイーコの頭をキリクは優しく撫でた。
「油断したのは疲れてたからだろ? そんなになるまでこき使っちまってすまなかった」
イーコはまたぶんぶんと頭を振った。
「働くのは私からお願いしたことです、キリクさんは悪くない、悪くないのに……。私はまた、自分のせいで大切な人を失うところだった……っ」
自分が奴隷になることよりも自分のせいで誰かが犠牲になることのほうが怖かった彼女は、涙を流しながら小さく体を震わせていた。
父親とおれを重ねてしまったのか。以前に少し聞いた話を思い出してキリクは困ってしまった。何と彼女に声を掛けたらよいのか。
「あ、」
そこでふと、ある疑問を思い出す。
「なあイーコ、おれはあの時大男に切りつけられて気絶したんだよな。どうやってお前は助かったんだ?」
途切れた意識の、その先のこと。あの後一体何が起きたのだろう。