今日は良い日だ
イーコは涙を拭って顔を上げた。
「キリクさんが、縄を切ってくれていたので」
「いや、足の縄は切ったが腕のは切れてなかっただろ? 刃を当てた瞬間にやられちまったような気がしたが」
そう言うとイーコは何故か気まずそうに目を伏せた。理由が分からずキリクはイーコの顔を覗き込んで「どうした?」と聞いた。
「縄には少しだけ、切込みが入っていたんです。恐らくキリクさんが刃を当てた時の。なので、あとは腕の力で……」
キリクは目を丸くした。
「引き千切ったのか……?」
「……はい。それで、人売りたちも……」
のしたのか。この細い腕で、あの大男達を。
キリクは唖然としてしまった。角族の力の強さについては聞いていたが、まさかここまでとは。
イーコは俯いてキリクと目を合わせようとしない。涙は止まったようだが、どうしたというのだろう。
「どうかしたか? イーコ」
問うとイーコは何かを恐れているような目をしてキリクを見た。
「あの……、私が、怖くありませんか……?」
「は?」
「だって私は……そんなことが出来てしまうほど、力が強いんです。やろうとすればきっと貴方のことだって、殺めることができてしまう」
イーコはまた目を伏せた。
彼女の恐れていることがわかって、キリクはふっと微笑んだ。そして手を伸ばし、膝の上で握られていた彼女の手に自分のそれをぽんぽんと重ねる。
イーコが驚いたようにキリクに視線を戻した。