今日は良い日だ
「怖がってたらこんなことできねえよ。おれはもうお前が怖くない。それを伝えなきゃって、気を失う直前に思ったんだ。……それに誰だって、殺そうとすれば人を殺せる。角族に限ったことじゃない。」
イーコの瞳に再び涙が溜まる。透き通る琥珀色をしていた。
「しかもお前は、おれを守ってくれた。命の恩人だ。ありがとう」
琥珀の瞳から透明な涙が零れる。
「親父さんの時のことは知らねえが、お前は今、誰かを守れるほどに強いってことだ。それでいいじゃねえか」
ぽろぽろと涙を流しながら、イーコはやがて小さな声で「はい」と言った。
トントン、とドアがノックされるのとほぼ同時に扉が開かれ、宿屋の主人がぬっと部屋に入ってきた。
「おお、お客さんやっと目が覚めたのかい、よかった。お嬢ちゃん心配してずっと泣いてたんだぞ」
「ああ、世話かけたな。ありがとう」
「医者代は上乗せしとくからな。さてと……待ってろ、飯持って来てやる、腹減ったろ」
「そうだな、頼む」
親父は「よっしゃ」と言って腕まくりをするとドアの向こうへ消えていった。
「ご主人……すごく良くしてくださったんですよ。医者を手配してくれたり、夜中にも心配して様子を見に来てくれたり」
何回目かの涙を拭ってイーコが言った。
「そうか。何か礼をしないとな」