今日は良い日だ
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砂漠のど真ん中に存在する町。決して涸れない湖に感謝し祈りを捧げ、歩き疲れた旅人をもてなす最高のオアシス。通りには商人が軒を連ね、町を賑わす。広場ではほとんど毎日、音楽家と踊り子達が人々を楽しませていた。
そんな人々の喧騒をするりと抜け、細い路地に入り込む一人の少女。フードをすっぽりと被った小柄なその少女は、道端で商売を営んでいた露天商の店の前でふと立ち止まる。広げられた風呂敷の上に置かれた様々な品をじっと見つめる少女に、店主が話しかけた。
「やあ角族(カノゾク)のお嬢ちゃん。何か探し物かい?」
気前良く話しかける店主に、少女は「ええ」と言いながらフードをぱさりと脱いだ。
「父の形見を、探しているんです」
まだあどけなさの残る顔、丸い瞳は琥珀色に透き通り、癖の強い髪の毛は燃えるような赤毛だ。そして何より最初に目に入るのが、おでこの両端から突き出ている二本の──ツノ。
少女は自分の目当ての品が無いことを悟り、店主に礼を言ってまた駆け出した。彼女が一歩踏み出すたびに、耳障りな金属音がシャンシャンと響く。何の音かと店主が辺りを見回すと、音を発していたのは今駆けていった少女の左足に付いた、忌々しい過去の鎖。
「よう店主、どうした陰気臭い顔をして」
馴染みの客が店主に話しかける。店主は少女を見つめたままぽつりと呟いた。
「嫌な世の中だ……。あの歳でもう、地獄を見てるとは」
次にあの子が来たときは売り物のひとつでもプレゼントしよう。店主はそう考えて、馴染みの客と明るく話を始めた。