今日は良い日だ
「これは、貴方が持っていてください」
そう言ってイーコが差し出していたのは、例の形見の短剣だった。太陽の光を受けて鈍く輝いている。
「鍛冶職人としての父の腕は素晴らしいものでした。きっとキリクさんを、守ってくれる筈です。本当は私が……、」
そこで言葉を区切り、イーコは思い直したように「いえ、」と首を振った。
「……よかったらお守りとしてこの短剣を持っていってください。お願いします」
イーコの琥珀色の瞳がキリクを射抜く。キリクは少し思案した後、ゆっくりと短剣に手を伸ばした。
そっと触れ、握る。そして自分の目の高さまで持ってくると、キリクは短剣の鞘をすう、と外した。
イーコの目を、見る。キリクを見つめるその瞳はどこまでも透き通っていた。
酷く緩慢な動きで、キリクはイーコの前に跪いた。まるで主人に仕える従者のように。
そして右手に持った短剣を、振り上げ、懇親の力を込めて、振り下ろす。
────キィン!!
耳を劈くような音と共に、イーコの足に嵌められていた枷の錠前が切れた。キリクは何食わぬ顔ですっと立ち上がり短剣を鞘に収める。
「いい剣だな、ありがとう」
そう言って短剣を腰紐の辺りに収めた。
イーコは呆気に取られ、キリクを見上げるばかりで声も出ない。