今日は良い日だ
町を観察しながら少し歩くと、通りを抜けて広場のような場所に出た。踊り子達が陽気な音楽に乗って踊り、人々を楽しませている。キリクも上機嫌になり、音楽に乗せて口笛を吹きながら歩き始めた。するとどこかから芳しい香りが漂ってきて、キリクの腹の虫がぐうと鳴った。
「そうだった。まずは腹ごしらえだ」
香りの出所を辿っていくと、広場に面した飯屋に着いた。日除けの布の屋根が広く設置してあり、その下で客がテーブルに着いている。広場の踊り子達を見ながら食事ができる最高の場所だった。キリクは迷わずその飯屋に入って行った。
適当に注文を済ませ、人の通りがよく見えるテーブルに着く。慌ただしく駆けていく者もいれば立ち止まって広場の踊り子を見つめる者もいる。先程のように人の観察をしながら料理を待っていると、キリクの目の端に見慣れない何かが映った。
一瞬で目で追い、その人物を見つめる、いや、"人"物ではない。
「っか……角族……?」
当たり前のように通りを歩く、頭に二本の角が生えた女性。周りの人間もさして様子に変わりはなく、それを自然に受け入れている。まるで自分達と同じ住人だとでも言うように。
キリクは動揺した。旅の中で角族に会った事は何度かあるが、こんな風に自由に出歩く者を見るのは初めてだったからだ。角族を見るときはいつも、拘束されているか迫害されているかのどちらかだけだった。
「はいよお客さん、待たせたな」
丁度そのとき、店の親父が料理をテーブルに運んできた。キリクは咄嗟に声をかける。
「お、おい……、あそこにいるのは角族じゃないのか? どうして誰も気付かない」
「は? ああ、角族ね。お客さん旅人だろう。そんな珍しいもんでもないだろうに」
呆れたように答える主人に、キリクは更に驚いた。
「そりゃ見たことはあるが……! 角族は魔族だぞ、なぜ拘束しない」
前のめりになってキリクが言うと、親父は一拍置いた後、からからと笑った。