今日は良い日だ
「魔族だろーが何だろーがお客さん、そりゃ害がないからよ。この町ではずっと昔から角族が一緒に暮らしているが、あいつらが何か悪さをしたなんて、噂でだって聞かねえぜ? それどころか人間よりも生真面目で馬鹿正直な気の良い奴らよ。ま、この町に滞在するんだったら慣れることだな」
呆気に取られるキリクと熱々の料理を残して、親父は店の奥へと消えていった。キリクが振り返ってもう一度通りを見てみると今度は若い角族の青年が広場の中心を駆けていくところだった。
(信じられん……、魔族と共存している町だと……?)
角族は人間よりも腕力などの力が強い。しかし元来気性が穏やかな種族のため奴隷として扱い易いらしく、希少価値が高いこともあって人買いの間では人間よりも高値で取引される。中には観賞用として傍に置きたがる物好きもいるようだが、基本的には肉体労働の奴隷として売買されることが多い。
目の前の広場をよく見回してみると、フードを被った人物が何人か見えた。そしてそこには不自然なふくらみが見える。あれは、角だ。目を凝らしてみればこんなにも、角族がそこここに溢れていた。
この町が角族と共存していることは理解したが、しかしひとつ疑問が残る。
「人売り」だ。
人身売買を生業にする輩から見れば、ここは宝の山だろう。高額の角族がそこ彼処にいるのだ。攫って他の町で売ってしまえばいい商売になる。それなのに何故この町の角族は身を隠さない? 考えられる理由はひとつ、攫われる危険性が低いからだ。
……何故?
そこまで考えてキリクは、テーブルの上の料理にまだ手を付けていなかったことに気付く。
(ま、一週間はここに居るんだ。その間に何かしら分かるだろう)
それにおれには関係のないことだ。
キリクはひとつ息を吐いてから食事に手を付けた。少し味が濃かったが、料理はすべて美味しかった。