今日は良い日だ
適当に宿屋を見つけて一週間分の滞在費を払ってからキリクは一度ラクダ小屋に戻った。約束通り店主から荷台を借りて預けていた荷物をすべてその上に乗せる。キリクの大切な商売の品だ。店主に礼を言ってからキリクは再び町の喧騒の中へと繰り出した。いい商売ができそうな場所を探す。人の多い通りは既に町の商人でごった返し、キリクの入れそうな場所はない。大きな通りから一本ずれた通りに入ってみると、大通りよりは劣るがまあまあ人の多い路地に出た。道の端には露天商がぽつぽつと並んでおり、客の相手をしている。
「よし、ここならいいだろう」
キリクは張り切って風呂敷を広げ、その上に大事な商品を丁寧に並べた。西の町で買った色彩鮮やかな皿、北の町で買った折り目の細かい絨毯、南の町で買った美しい貝殻のアクセサリー、東の町で買った荘厳な造りの短剣。自慢の品々をキリクは並べる。無意識の内に鼻歌を歌っていた。キリクはこの仕事が好きなのだ。
品物を並べ終わると同時に客がやって来た。いつものように軽快な口調で商品を勧める。品物の詳細についての多少の誇張はご愛嬌。最初に値段を高めに言っておいて後で値引くと効果あり。人の心理を見抜く力、目の前の人物が求めている物、こと。自分の人格すら商売の一角であり売り上げに影響することをキリクは知っていた。相手の求める人物像を演じる。客が気持ちよく買い物をするために必要なことだ。それによってキリクは金を得る。なんて等価交換。誰も損をしない、それどころかどちらも得をする素晴らしい仕事である。
キリクは順調に商品を売り捌いていった。もちろん中には何も買わずに去っていく客もいたが、彼らがどの商品を気にしていたかをキリクは見ていた。この一週間にまた会うことがあればその商品を更に魅力的な言葉で勧めよう。そうすれば必ず買ってくれるはずだ。そんなことを考えながら商いをしている内に、いつの間にか太陽が沈み始めていた。暗くなれば商売はできない。
そろそろ店仕舞いか、と立ち上がったところで誰かの足先が目に入った。この客で最後にしようと顔を上げたところで、キリクは固まった。