絶対王子は、ご機嫌ななめ
「円歌ちゃん、おはよう。……って、あれ? 君、柚子ちゃんじゃないか!! うちの制服着てるってことは、昨日入社した新人ちゃんって柚子ちゃんのことだったんだね」
「ああ!! 茶髪くん!?」
「何? 柚子、知ってるの?」
「え? あぁ、そのぉ……」
知ってるけれど、知ってるとは言えなくて。あははと笑ってごまかしてはみたものの、そうは上手く事は運んでくれなかった。
「円歌ちゃん聞いてないの? 昨日柚ちゃんの車の鍵が開かなくなって困ってたところを、俺が助けてあげたんだよ。なのに、お礼のチューもしてくれなくてさ」
そう言うと二十六歳の茶髪男が唇を尖らせて、悲しい顔をしてみせた。
あり得ない……。
円歌ちゃんを見れば、おでこに手を当てて呆れ顔。
「柚子は本当に昔からそそっかしいんだから。智之さんも、いい歳してチューとか言わないで下さい」
「は~い。円歌ちゃんは相変わらず手厳しいねぇ~」
茶髪くん……改め智之さんが言うとおり、円歌ちゃんの物言いはいつも厳しい。でもそういうところが頼りになるというか、安心できる存在で。
私がいつまでも甘えが抜けないのは、円歌ちゃんがいつもそばにいるからかもしれない。
「おい、智之。そこで何してる?」
円歌ちゃんの横で小さくなっていた私は、その声に大きく反応して顔を上げた。そして智之さんの後ろに立つ人の顔を見ると、胸が大きく高鳴った。