絶対王子は、ご機嫌ななめ

私も残りの食器を手に持つと、政宗さんを追ってキッチンに向かう。

「そこに置いて」

「あ、はい」

政宗さんに言われるがままに食器を置くと、キッチンを出ようとして足を止めた。

「って違うし! 政宗さん、私が洗います」

クルッと向きを変えると、政宗さんに一歩近づいた。

「だから……」

「問答無用です。どいて下さい」

手に洗剤の泡がついたままの政宗さんを、無理やり押しのける。

「おいおい、何するんだ! まだ手に洗剤が……」

戸惑ったような声に振り返れば、手から水滴をポタポタ垂らして政宗さんが立っている。

「ごめんなさい! どうぞ、手を洗って下さい」

スポンジを持ったまま右側へ身体をずらすと、私の横に立った政宗さんが両手をすっと差し出した。

「洗って」

「え?」

「柚子が洗えって言ってるんだけど」

政宗さんの言ってることの意味がすぐには理解できなくて、彼の顔を見つめるとまばたきを何度も繰り返す。

「ん」っと一言、政宗さんがもう一度手をぐいっと差し出すと、やっと事の次第を理解した。



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