絶対王子は、ご機嫌ななめ
「そうか。じゃあ“茶”だな」
「茶!? 柚子茶ってことですか?」
「よくわかってるじゃないか」
いやいや、わかってるとかそうことじゃなくて。世の中に“茶”なんてあだ名を付けられる人なんて、そうそういるもんじゃない。っていうか、そんなあだ名付けられたら恥ずかしすぎるし最悪だ。
もしかして冗談で言ってる? なんて思って政宗さんを見上げたけれど。ニヤリと片方の口角を上げて薄く笑う顔を見て、冗談じゃないことを確信した私は、
「じゃあジャムで……」
なんて、馬鹿なことを口走ってしまった。
なんでそこで“ジャム”を選択しちゃうかなぁ。『ジャムも茶も嫌です』って、どうして言えないの?
でももう言っちゃったものはしょうがない。政宗さんにジャムと呼ばれるのも、私だけ特別って感じでいいんじゃない? ものは考えよう、自分に都合のいい方に思っておけば、そのうちいいことが起きるかも。
「円歌、ジャムちょっと借りてもいいか?」
「今? それはちょっと困る。フロント業務は今日が初めてだし、ひと通りのこと教えないと」
「じゃあそのひと通りってことを教えて時間出来たらでいいから、俺のところに寄こして」
「はいはい」
ちょっと円歌ちゃん、「はいはい」ってそんな簡単に返事しちゃっていいの?
政宗さんも政宗さんだ。やっぱり顔は無愛想で、何を考えているのかさっぱりわからない。
ジャムなんてあだ名をつけられてしまった最悪な再会は、いまいち後味の悪いものとなってしまった。