絶対王子は、ご機嫌ななめ
「はい、コーヒー。ちょっとは落ち着いた?」
「……うん」
鼻水をすすりながら、円歌ちゃんが淹れてくれたコーヒーを一口飲む。
「じゃあ、そろそろ話してもらえるかしら?」
円歌ちゃんは目に前の席にドカリと座ると、腕組をして私の顔を見据える。その顔が少し怖くてゴクリと唾を飲み込むと、円歌ちゃんから視線をそらしてから土曜日にあったこと全て話した。
「へぇ~、そんなことがあったんだ。確かに政宗さんから『柚子が俺のところに泊まることになったから』ってメールはあったけど」
なぜだか円歌ちゃんは、複雑そうな顔をして首を傾げる。
「ねえ、円歌ちゃんはどうして政宗さんのツアー参戦を止めなかったの?」
「はぁ? なんで私が?」
「だって円歌ちゃんは政宗さんの彼女でしょ? だったら関節炎のことも知って……」
「私、政宗さんの彼女じゃないわよ」
「え?」
「誰にそんなデマ吹きこまれたのか知らないけど、私にはもっと素敵な彼がいるから。あれ? 柚子には紹介してなかったっけ?」
円歌ちゃんはあっけらかんに言うと、ケラケラと笑い出した。
はい、紹介してもらってません。円歌ちゃんが大学生の時に付き合っていた人なら紹介してもらったけれど、彼とはもうとっくの昔に別れてるはずだし。