絶対王子は、ご機嫌ななめ

後悔先に立たず──

それでも円歌ちゃんが背中を撫でてくれたのが功を奏したのか、少しずつ気持ちも落ち着いてきて、いつの間にか涙も止まっていた。その涙を指で拭うと、ヒドいであろう顔を上げる。

「柚子、ごめんね。私がもっと早く、柚子の気持ちに気づくべきだった」

「そんなこと……」

私が勝手に思い込んでいただけなんだから、円歌ちゃんが謝ることなんてひとつもない。

泣きはらした顔のまま円歌ちゃんに笑いかけると、パチンとおでこを撥ねられた。

「イタッ」

「無理しちゃって。ねえ柚子。キスの相手って、政宗さん?」

「キ、キスって。円歌さん、な、な、なに言ってるんですか?」

いきなり“キス”なんて単語が出てくるから、噛みまくりなんですけど……。動揺丸見え。これじゃあ『そうです』と言ってるようなものじゃない。

それでも知らぬ存ぜぬを貫き通そうと、円歌ちゃんと目を合わせないようにしていたんだけど。

「なんだよ、それ! 柚子ちゃん、政宗さんとチューしちゃったの!? 勘弁してよぉ~」

智之さんの悲痛の叫びに思わず「ごめんね」と言ってしまったから、またしてもひと波乱。

「政宗さんが勝手にね。私の意志なんていつも無視なんだから、もうホント困っちゃう」

「いつも無視って。柚子ちゃん、政宗さんと何回キスしたの?」

「あ? あ、うん、三回くらい?」

だったと思うんだけど……。


 
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