絶対王子は、ご機嫌ななめ
「はい、乗って」
智之さんが車のドアを開けてくれ、私の背中を優しく押す。
「智之さん、朝早くからすみません」
「何かしこまっちゃってるの。さっさと乗った乗った!」
智之さんは楽しそうに言うと、私を助手席に乗せてから自分も運転席に乗り込みエンジンを掛ける。
「ちょっと空気の入れ替えするね」
その言葉と同時にウインドウを開けると、初夏の爽やかな風が髪を揺らした。
今日は良い天気。絶交のドライブ日和だ。
……って、違うでしょ!
でも智之さんの楽しそうな姿を見ていると、そんな気分になってしまうから面白い。
きっと私のことを思って、明るく振る舞ってくれているんだろう。
そこが智之さんの良さであり、魅力なんだろうけれど。
「柚子ちゃん、手つないでっちゃう?」
相変わらずチャラいのが玉にキズ。
「つなぎません」
差し出された手をペチッと叩き、怒った顔を見せる。
「柚子ちゃん、冷たいなぁ。減るもんじゃあるまいし、手ぐらい握らせてくれてもいいのに……」
智之さんは不満顔でそう言うと、車を一気に加速させた。