絶対王子は、ご機嫌ななめ

「ホント、素直じゃないなぁ。でも僕は、そんな柚子ちゃんが好きなんだけどね」

智之さんはそう言って、ウインクしてみせた。

「好きって……」

練習場のアチラコチラで似たような光景を目にしてるからか、本気なのか冗談なのかよく分からない。

「本当は柚子ちゃんも気づいてるんじゃない? 政宗さんの気持ち。政宗さんって、僕と違ってかなり真面目だよ。好きでもない子に“キス”なんてしないと思うんだけどなぁ」

「あ……」

そうだ、思い出した。

中国料理を食べたあと車の中で、政宗さんと初めてキスしたあの日。『誰にでもするわけ無いだろ。おまえはバカか』って言われたっけ。

あの時の私は、政宗さんは大人の男で、年齢も年齢だからきっと“キス”なんて慣れてるんだろうと思っていたけど。

私の変な妄想どうり、政宗さんも私のことが好きだった……って、そういうこと?

「やっと気づいたみたいだね。ホント、柚子ちゃんって鈍感なんだから」

「鈍感って。その言い草、ヒドくないですか? それに結局のところ私を勘違いさせたのは、智之さんなんですからね!」

「そうだったっけ?」

なんて。とぼけてみせる智之さんの顔を見ていたら、沸々と元気が湧いてきた。



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