絶対王子は、ご機嫌ななめ
「柚子ちゃん? どうしちゃったの、そんなに鼻息荒くして」
智之さんに声を掛けられて、自分の今の状況を把握する。
「え、あ、なんでもないです! き、気にしないでください」
ここがゴルフクラブの入り口なのを、すっかり忘れていた。
誰かに見られてないかと、あたりを見回してみたけれど……。
私の恥ずかしい姿を見ていたのは、どうやら智之さんだけだったみたい。
ほっと一息ついていると、少し離れた場所から智之さんが私を呼んだ。
「柚子ちゃん、こっち来て」
大きなボードの前で、智之さんが手招きをしている。
なんだろうと小走りで近づくと、そのボードには今日のスケジュールや選手のスタートコースが掲示してあった。
「えっと、政宗さんは……。あ、あったあった。政宗さんはインコーススタートだね」
「インコーススタートってことは、10番ホールからってことですよね?」
「なに柚子ちゃん、そんなこと知ってるの?」
不思議そうな顔をする智之さんに、自信満々の顔で頷いてみせる。
でも実のところは、子供のころ父親とゴルフの大会をテレビ観戦していて、ゴルフ場はクラブハウスを中心にアウトコース(1~9番ホール)とインコース(10~18番ホール)に分かれていると教えてもらったのを思い出しただけなんだけど。
「じゃあそろそろ行こうか」
「はい」
もうすぐ政宗さんに会える──
はちきれそうな胸を押さえ、コースへと向った。