絶対王子は、ご機嫌ななめ
「ここ、だよね」
ゴルフフロント棟の隣。スポーツクラブ棟の奥にある休憩室のドアの前に立つと、大きく深呼吸をする。
いったい今から、何をすることになるのか? 全く想像もつかないことに、不安は増すばかり。
ドアノブに手を掛けてもそれをなかなか回すことができないでいると、突然そのドアが開いた。
「うわっ!! って柚子ちゃんじゃないか。なになに、俺に会いに来てくれたの? 嬉しいなぁ~」
いえ、そうじゃありませんから……。
そう言いたいのに、智之さんは私の両手をしっかり握るとブンブン腕を振って嬉しさをアピールしだした。
「と、智之さん? 手が痛いんですけど?」
「あっと、ごめんね。嬉しすぎて、つい」
ついって……。身長差があるから、おもいっきり振られたこっちはかなりダメージを受ける。
「あの、政宗さんはいますか?」
少し痛む肩を擦りながら智之さんに聞けば、にこやかに笑っていた顔を一瞬で曇らせた。
「政宗さん? なに、柚子ちゃんは政宗さんに会いに来たの?」
「はい。あ、いや、会いに来たというか、仕事が落ち着いたらここに来るように言われたっていうのが正解なんですけど」
「ふ~ん、政宗さんがねぇ~。で素直に来ちゃったってわけ?」
「素直にっていうか、円歌ちゃんに行けって言われたからで」
智之さん、一体何が言いたいんだろう?
円歌ちゃんは私の直属の上司的立場の人になるわけで。その人に行けと命じられたら、行かないわけにはいかなくて。
政宗さんのことは気になるけれど、今はそれどころじゃない。
ビクビクして立っていると、休憩室の中のソファーから姿無き声が聞こえた。